十月五日、曇り空。ぐっと涼しいてか、窓を開けてると少し寒いな。いきなりだなぁ。
古本屋通いをするようなって長いが、私は全集を買う方でなく。てか置く場所が無い
し昔は高かった。古書店に入ると壁の上段に芥川や漱石の全集をズラッと並べ細長い
紙の札をつけた光景が、以前は当たり前でそれを眺めるのも楽しい気がしたけど、
この頃は全集の値うちが下がりまくり、買取も断られるらしい。新刊で買った時は、
毎月配本されて一冊づつ届く楽しみとか、あったんだろな。古本市とかで全集の端本
を買うぐらいだった。欲しくないわけじゃないけど。しかし唯一、数年前の年末に
馴染の古本屋にずっとあった「吉行淳之介全集」を店主と話してて、まけてくれる
と言われ、それじゃと即決で買った。中も出して見たが、きれいでおそらく前の持
主は買ったまま読んでないと思われた。長年古本見てると読んだ跡が無いのが、わ
かるんだね。所謂、本棚の飾りにしてたんだろう。それも気に入ってその場でお金
を払った。そして届けてくれるのを平日に指定した。でかい箱が休みの日に届くと
家人が何だこれは。とうるさいから。家に帰り全集を置く場所も作って届くのを
その日は、ずっと待っていた。欲しかっただけあって、届いたのが年末なのもあり、
お正月休みの間は、ずっと一冊づつ読んでほぼ全部読んだ。吉行と言うと娼婦好き
だの思われるが、とても文章がうまいしエッセイも好きだ。初めて読んだのは、「
軽薄のすすめ」エッセイだ。何年もかけて集めていた時期があり、単行本で「四角
三角丸矩形」が絶番でどうしても見つからなかったのが、天神さんの某店で見つけ
て、これで一旦終了。と自分で思ったな。他にも誰かがまとめて売ったらしい文庫
も沢山あり全部買ったが顔馴染みの古書店の人で一冊百円にしてくれ嬉しかった。
中には駄作もあるし病気勝ちでなんとかペンをとったような作品もある。七十才で
ガンで亡くなった。その葬式の日のニュースを自宅のテレビで見たのを、今も覚え
ている。夏の暑い日で、宮城まり子さんが喪主であいさつしていた。その頃は娘が
三才で手がかかり、とても東京へ行ける訳もなかったし何だか動けないのが悔しい
気持だったな。来年は没後三十年だと昨日読んだ本の帯で知る。あれからもう、
そんなに経つんだね。やれやれ。